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東京高等裁判所 昭和34年(う)997号 判決

被告人 西山金治

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年六月に処する。

押収してあるミキサー一台(新潟地方裁判所昭和三二年領第五八号の四)は没収する。

被告人から金一九万五百円を追徴する。

原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

論旨第一点の一及び二のうち、原判示第一の(一)及び第二の(二)の各事実に関する部分について。

所論は、原判決は、原判示第一の(一)において、被告人が、高橋佐久、桑原清吉等と共謀のうえ、山際正義から、同人の昭和三〇年度の所得額を減額査定されたい旨の請託を受け、その謝礼の趣旨で供与されるものであることの情を知りながら、現金六万円の交付を受け、以つて自己並びに高橋及び桑原の新潟税務署勤務の大蔵事務官としての職務に関して賄賂を収受し、因つて山際をして、不当に減額した右年度の所得税の確定申告書を提出させて受理し、これを同署長に進達して、職務上不正の行為をなし、且つ相当の行為をなさなかつた事実を、原判示第二の(二)において、被告人が、前記高橋及び桑原と共謀のうえ、前記山際をして、同人の昭和三一年度の所得税について、不当に減額した確定申告書を提出させて受理し、これを同署長に進達して、職務上不正の行為をなし、且つ相当の行為をなさなかつたことに対する謝礼の趣旨で供与されるものであることの情を知りながら、現金三万円の交付を受け、以つて自己並びに高橋及び桑原の前記職務上不正の行為をなし且つ相当の行為をなさなかつたことに関して賄賂を収受した事実をそれぞれ認定したが、(一)、被告人は、昭和二八年七月から昭和三二年四月まで、新潟税務署所得税第一係に勤務し、その間調査班又は総括班に所属していたが、山際の昭和三〇年度の所得税の調査担当者は北沢事務官であり、又同人の昭和三一年度の所得税の調査担当者は桑原事務官であり、被告人には山際の右各年度の所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関する職務権限がなかつたものであるから、被告人が各原判示のように同人から現金の交付を受けたとしても、収賄罪を構成するいわれがなく、(二)、山際の昭和三〇年度の所得税の調査担当者は北沢事務官であるが、原判示第一の(一)の事実については、同事務官と被告人との間に共謀関係が認定されていないのであるから、この関係については、その賦課、減免並びに課税標準の調査等の職務権限を持つていなかつた高橋及び桑原の両事務官と共謀関係があることのために、被告人に収賄罪が成立するいわれがなく、(三)もともと、北沢、桑原両事務官には各原判示のような枉法の事実はなく、仮にあつたとしても、加重収賄罪が成立するためには、行為者に枉法の事実の認識があることを要するものと解すべきところ、被告人には、枉法の事実について右両名と共謀関係はなく、又枉法の事実の認識もなかつたものであるから、被告人に、加重収賄罪を問うべき理由はないというのであるが、(一)及び(二)については、被告人の履歴書及び被告人の検察官に対する昭和三二年五月八日付供述調書の各記載を総合すれば、被告人は昭和二八年七月一〇日から昭和三二年四月五日まで新潟税務署所得税第一係に勤務し、その間、昭和三一年七月末までは調査班に、その後は総括班に所属していたこと、同署所得税第一係調査班は、同第二係の調査班とともに、同税務署管内の白色申告納税義務者の所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等の職務を担当し、同署所得税第一係総括班は、同署所得税第一、第二係の内部事務を担当していたこと、並びに同署所得税第一係に所属する各職員は、調査班に所属していると、総括班に所属しているとに拘わりなく、すべて同税務署管内の白色申告納税義務者であれば、その何人であることを問わず、これに対する所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関する事務に従事する法令下の職務権限を有するものであり、なお右各職員は、年度毎に、区域と業種とによつて定められた特定の納税義務者の所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関する事務を分担しているのであるが、この分担事務の内容も係主管者において必要と認めるときは何時でも変更されうるものであり、従つて右各職員は、結局、所得税第一係の分担事務全般にわたつて、これに従事する職務権限を有するものであり、なおこのことは当審証人佐藤三太郎、同林忠治、同北沢貫吉、同佐久間竜の各証言及び当審で証拠調をした関東信越国税局訓命第一四号税務署事務分掌規定に徴しても明らかであるから、いやしくも、新潟税務署所得税第一係の所属職員であつた被告人は、たとえ当該年度の担当者ではなかつたとしても、同税務署管内の白色申告納税義務者である山際の昭和三〇年度及び昭和三一年度の各所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関して、法令上、職務権限を有していることは当然であり、被告人に、同人に対する右各年度の所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関する職務権限がないことを前提とする論旨は、その前提が失当であるから理由がなく、この点に関する論旨はいずれも理由がなく、(三)については、被告人が、前記高橋及び桑原と共謀のうえ、原判示第一の(一)のように、前記山際から、同人の昭和三〇年度の所得額を減額査定されたい旨の請託を受け、その謝礼の趣旨で供与されるものであることの情を知りながら、現金六万円の交付を受け、以つて自己並びに高橋及び桑原の前記職務に関して賄賂を収受し、因つて山際をして、不当に減額した右年度の所得税の確定申告書を提出させて受理し、これを同署長に進達して、職務上不正の行為をなし、且つ相当の行為をなさなかつた事実、並びに原判示第二の(二)のように、右山際をして、同人の昭和三一年度の所得税について、不当に減額した確定申告書を提出させて受理し、これを同署長に進達して、職務上不正の行為をなし、且つ相当の行為をなさなかつたことに対する謝礼の趣旨で供与されるものであることの情を知りながら、現金三万円の交付を受け、以つて自己並びに高橋及び桑原の前記職務上不正の行為をなし且つ相当の行為をなさなかつたことに関して賄賂を収受した事実は、原判決がかかげている関係証拠により、各共謀の事実並びに各枉法の事実を含めて、すべて十分に、これを肯認することができ、なお当審の証人高橋佐久及び同桑原清吉の各証言も、右各枉法の事実を肯認しており、記録を調査し、且つ当審の事実取調の結果をも検討しても、右各事実認定には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の疑はなく、又論理の法則や経験則に違背した違法もないから、この点に関する論旨はいずれも理由がない。

論旨第一点の三のうち、原判示第五の(三)の事実に関する部分について。

所論は、原判決は、原判示第五の(三)において、被告人が、前記桑原及び高橋と共謀のうえ、前記山際から、同人の昭和三一年度の所得額の査定につき、便宜な取計らいを受けたい趣旨で供与又は饗応されるものであることの情を知りながら、現金三千円の交付及び一人当り金千五百円相当の酒食等の饗応を受け、以つてその職務に関して賄賂を収受した事実を認定したが、同人の右年度の所得税の調査担当者は桑原事務官であり、被告人には、同人の右年度の所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関する職務権限がなかつたものであるから、被告人が、原判示のように、同人から現金の交付を受けたとしても、収賄罪を構成するいわれがないというのである、

被告人は、論旨第一点の一及び二のうちの前記関係部分において説明したとおり、新潟税務署所得税第一係に所属し、同係の分掌事務全般にわたつて、これに従事する職務権限を有していたものであるから、たとえ当該年度の担当者ではなかつたとしても、同税務署管内の白色申告納税義務者である山際の右年度の所得税の賦課、減免並びにその課税標準の調査等に関して、法令上、職務権限を有していることは当然であり、被告人に右職務権限がないことを前提とする論旨は、その前提が失当であるから、理由がない。

(その余の判決理由は省略する。本件は理由のくいちがいで破棄自判)

(裁判官 中西要一 久永正勝 河本文夫)

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